ある者は、大学の図書館で静かに地方紙に目を通す
新聞の10面、下に小さく載る記事
佐野日大完勝の6文字
インタビュー記事やコメント、当然個人の名前などどこにもない
それでも、じっと6文字を見つめる・・・
文章には、行間を読むという言葉がある。「6文字で何が読めるのか」と人は言う
しかし、ある者にとっては十分すぎる6文字であった。
少しの緩みで簡単に立場が逆になる競技であることを知っているから
心の中で、「お前たち良く頑張ったな」と後輩たちに聞こえるはずのない
言葉を掛けてやる。
「最後まで全力でやりきれば、見えてくるものがあるから。」
そんなことを思いながら新聞の紙面を閉じキャンパスの銀杏並木に姿を消す。
2014年11月のある日の夕暮れ、気が付けばあっという間に沈む夕日
窓灯りが無ければ
互いの顔もおぼろげでしかない秋のグランド。
3年間に渡る練習、決勝戦前日の練習を終える。
「練習終わったな」と隣通し互いに眼と眼を合わし
肩を組むものがそこにある。
今、自分に出来ることは、全てやった。
練習に明け暮れた毎日 なんと長かったことか・・・
そしてなんと短かかったことか・・・
なんと苦しかったことか
なんと楽しい日々だったことか・・・
思いの整理もつかぬ時、監督から掛かるミーティングルーム集合の声
皆を待つ部屋は、秋の夜気がどこから入ってきたのか
身体に染み入るような冷たさ・・・
しかし、皆にとっては すがすがしく感じる この空気 この時間・・・
しわ一つなく整頓され、前に並ぶ決勝試合用のジャージ
自分たちにとって、気高く尊い ジャージが目の前にある。
3年生だからといって、必ず着られる保証のないジャージ
40名の部員たちが静まりかえる。
1年前経験した光景なのに、何故かその意味と責任の重さを
今ここに思いを知る。
静かに監督の一声から始まるジャージの意味・崇高なるジャージについて
去年聞いたはずの一言一言が、心に沁みる。
やがて、一人一人が前に呼ばれ手渡されるジャージ
固い握手と、「何故お前が着るに値するのか」掛けられる一言
背番号1から25番まで自分の決勝への思いを言葉少なに部屋に響かせる。
この日だけは、誰にも触れさせないジャージ
ある者は、3年間最後の背番号23を受け取り帰宅する。
そして気が付く・・・
去年、大学進学のためのテストを回避し、更に怪我が癒えぬのに
決勝戦途中出場し力の限り頑張った先輩の付けた番号であることに・・・
残り時間など関係ない
出られるチャンスが1秒でもあれば、全てをぶつける私の
魂を見ていてくださいと・・・
ある者は、背番号20を受け取り何度もチャンスを掴みながら怪我になき
また這い上がってきた日々を回想する。引き継がれるに値する番号にしようと
静かな闘志を燃やす。
また、3年間守ってきたレギュラー番号を持つ者は、
ジャージを穴が開くほど見つめながら番号の上を、そっと右手でなぞる。
明日も頑張るから、最後まで一緒に頑張ってくれと祈り床に就く
これらは、言葉のまやかしかもしれない。
しかし、我々が推し量る以上に、現実はもっと色々な思いを一人一人が交錯させ
当日、試合開始のホイッスルを聞くに違いないことは
紛れもない事実である。
そして、佐野日大ラグビー部史上最も多くの公式戦・練習試合を消化し
誰よりも泣き、誰よりも笑ってきた者たちが決勝の舞台に立つ
彼らしか分からないフィールドの中から、スタンドで一心不乱に応援する人々・父兄を眼に
した時、彼らは何を考え行動するのだろうか
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